quote:サンパウロの貧しい市民10万人以上に対する政府の情報技術研修によって,コンピュータを使ったことがなかった人々がいま,電子メールを書いてネットサーフィンをしている。ブラジル政府は2001年からウインドウズではなくリナックスを使い始めており,それによって約1000万ドルを節約している。また,ハッカーやウイルスからの攻撃にも弱くないので,メンテナンスも節減できている。
「彼女はどこでみかけても,ヘッドフォンでなにか音楽を聴きながら文庫本を読んでいた。目立たない,変わったところもない,どこにでもいる普通の女の子という印象しか,ほとんどの人は持っていない。みんなでガヤガヤと話し合っているときでも,自分から口を開くことはほとんどない,感情を表に出すことも少なく,明るい顔も愛想笑いしかみたことない。みんなの連絡帳の彼女のメールアドレス欄は空白で,ウェブで話題の話も全然わからないという顔でいつもきいていた。でもボクは,彼女の一面を知っていた。
たまたま部室で二人きりになったときも,彼女はヘッドフォンで音楽を聴きながら,本を読んでいた。かすかに聴こえた音,あっ,スージー・アンド・ザ・パンシーズだ。彼女はずっと本に没頭していたけど,ボクはそれに気付いていた。続けてフランソワーズ・アルディが聴こえた。ボクはなんとなく彼女の雰囲気に似合わないそれらに驚きながら,どう話しかけたらいいか考えてた。ふと,ずっとみられていることに気付いた彼女は,ボクをみながら首をかしげた。ボクはボーっとしながら,自分の持っている携帯MP3プレイヤーのヘッドセットを彼女に渡した。携帯MP3プレイヤーには,LONG VACATIONとP-MODELが入っていた(彼女は,有頂天と平沢進ソロの方が好きと後にきくことになる)。
彼女とたまに話をするようになったのはそれからだ。ヒトゴミと海が苦手なこと,携帯電話もパソコンも持ってなくて,ネットもしたことがないこと,学校でもネットはできるけど,立ち寄りがたくてしたことがないこと,彼女のことを少しだけ知っていった。だがしばらく経ったある日,誰もほかに人がいないときに,彼女がフリッカー・コムの使い方について恥ずかしげに訊いてきた。パソコンを買ったのかどぉかもわからないけど,とりあえず公開している写真をみるためのURLを教えてよと訊くと,あとでと軽くいなされた。…ただ,それだけのことだ。だけど,ボクはちょっとだけうれしく感じていた。アン・ディスコミュニケーション,シャルロット・ゲンズブールに似た横顔の向こうに,モノクロームの半月が輝いていた」。
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